竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
 ルードヴィヒは用意していた白いシャツを羽織りながら、エルナに言った。肌色の面積が少なくなったことに、エルナは内心ほっとする。
「どうして、私たちには見られたくないと思うのですか?」
「醜いからだ」
 ルードヴィヒは即答する。
「竜の姿はおどろおどろしい。……今までお前のように、偶然先祖返りした姿を見てしまった女たちは、みんな気味悪がって怪物扱いしたと聞いた。竜人の姿のときは、美しい見た目に頬を染めていても、一度怪物と思ったら、そのイメージは拭えない」
「怪物だなんて……私はそんなふうに思いませんでした」
「ああ。そうだな。だから俺は……すごく驚いたよ」
 切なげに、ルードヴィヒはふっと小さく笑った。
「そういった歴史が何度もあって、シェーンベルグは次第にヘンデルの女たちにひどい扱いをするようになった。〝あいつらは自分たちと同じ、見た目が綺麗なものしか愛せない。心が汚い奴らだ〟と。そういう教育を生まれたときから受けてきたんだ」
 ヘンデルの女性たちが虐げられることに、そんな背景があったとは。エルナは驚き、悲しくなり――どちらを責めることもできなかった。
「だったらもっと早く条約破棄すればよかったんじゃないですか? 歴代の王たちは、そんなに聖水を諦められなかったのですか?」
 それとも、歴代の王たちを傷つけたヘンデルの加護持ちの女性に復讐したかったのだろうか。
「俺もそう思うが、みんながそうしなかったのは……美しさを求めたからだろう」
「美しさ?」
「竜人は元々、見た目の美しいものを好む傾向にある。竜王族が飛びぬけて容姿端麗に生まれるのは、やはりヘンデルの女たちの遺伝子を得ているからだ。……強欲な竜王族は、聖水ではなく美しい遺伝子を諦められなかった」
 遺伝子のために憎い女性たちを何度も迎えていたなど、なんて滑稽なのか。ルードヴィヒは呆れた笑みを浮かべた。
(……ルードヴィヒ様、きっと過去にいろんなことがあったのね。だからこそ、自分の代で条約破棄をしようと決心したんだわ)
 そう思うと、それを止めようとすることが果たして正解なのか、エルナはわからなくなった。ルードヴィヒには条約破棄したい理由が明確にあるはずだ。しかし自分はどうだろう。ただの身の保身と、ヨハンと母との思い出を守りたいというだけ。そんなの、自分勝手な押し付けに過ぎない。
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