竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
「あっ、ヨハン様だぁ! 私に会いにきてくださったのですねぇ!」
なにかを言おうとするヨハンの声に被せるようにして、アリーシャのわざとらしい声が庭園内に響く。ちょうど外出から戻ってきたようだ。
アリーシャはヨハンを見つけるなり腕を絡まると、ふたりの仲を見せつけるように自慢げな顔を浮かべてエルナを見上げた。反対にヨハンは口をつぐんで、エルナと目を合わせないよう下を向いている。
「お姉様、ヨハン様への最後の挨拶は無事に終わった?」
「……ええ。今さっき終わったわ」
「じゃあ、もう用はないわよね。ヨハン様は私のお部屋にお連れするから、邪魔しないでね? 行きましょ、ヨハン様」
アリーシャはヨハンの腕をぐいぐい引っ張って、そのままエルナとヨハンを遠ざけていった。
最後になにを言いかけたのか――だがそれを聞いたところで、エルナにできることはなにもない。去りゆく幼馴染の背中を見つめながら、エルナは失恋とはちょっと違う、なんともいえない胸の痛みを感じていた。
2
「じゃあな。エルナ。あっちでうまくやるんだぞ」
「お姉様、お元気で」
エルナと家族の別れの瞬間は、びっくりするほどあっけないものだった。
「……はい。お父様もアリーシャも、今までお世話になりました。……さようなら」
メイドたちは最後まで同情の眼差しをエルナに向け、ヨハンはアリーシャに腕を組まれたまま、歯がゆい表情を浮かべて馬車に乗るエルナを黙って見つめていた。窓から顔を出し別れを惜しんだりすることもなく、馬車はエルナと荷物を乗せて走り出す。
(ああ。きっともう、ここには戻ってこられないのね)
ことが決まってから今日までが早すぎて、エルナは感傷に浸る暇がなかった。しかし、馬車に揺られて初めて、もうヘンデルの国民でなくなることへの実感が湧いてきた。
竜人の国、シェーンベルグへ着くには馬車で一日半はかかる。エルナは結婚相手であるル-ドヴィヒに失礼のないよう、今の段階から高価な水色のシルクドレスを身にまとっていた。慣れないコルセットにエルナは眉をひそめ、この状態があと一日半以上続くのかと思うと途方に暮れた。今すぐ脱いでしまいたいとさえ思う。
(このままじゃ苦しくて寝ることもできないわ。……気分を紛らわすために、外の景色でも眺めていよう。この道を走るのも、これが最後だろうから)
なにかを言おうとするヨハンの声に被せるようにして、アリーシャのわざとらしい声が庭園内に響く。ちょうど外出から戻ってきたようだ。
アリーシャはヨハンを見つけるなり腕を絡まると、ふたりの仲を見せつけるように自慢げな顔を浮かべてエルナを見上げた。反対にヨハンは口をつぐんで、エルナと目を合わせないよう下を向いている。
「お姉様、ヨハン様への最後の挨拶は無事に終わった?」
「……ええ。今さっき終わったわ」
「じゃあ、もう用はないわよね。ヨハン様は私のお部屋にお連れするから、邪魔しないでね? 行きましょ、ヨハン様」
アリーシャはヨハンの腕をぐいぐい引っ張って、そのままエルナとヨハンを遠ざけていった。
最後になにを言いかけたのか――だがそれを聞いたところで、エルナにできることはなにもない。去りゆく幼馴染の背中を見つめながら、エルナは失恋とはちょっと違う、なんともいえない胸の痛みを感じていた。
2
「じゃあな。エルナ。あっちでうまくやるんだぞ」
「お姉様、お元気で」
エルナと家族の別れの瞬間は、びっくりするほどあっけないものだった。
「……はい。お父様もアリーシャも、今までお世話になりました。……さようなら」
メイドたちは最後まで同情の眼差しをエルナに向け、ヨハンはアリーシャに腕を組まれたまま、歯がゆい表情を浮かべて馬車に乗るエルナを黙って見つめていた。窓から顔を出し別れを惜しんだりすることもなく、馬車はエルナと荷物を乗せて走り出す。
(ああ。きっともう、ここには戻ってこられないのね)
ことが決まってから今日までが早すぎて、エルナは感傷に浸る暇がなかった。しかし、馬車に揺られて初めて、もうヘンデルの国民でなくなることへの実感が湧いてきた。
竜人の国、シェーンベルグへ着くには馬車で一日半はかかる。エルナは結婚相手であるル-ドヴィヒに失礼のないよう、今の段階から高価な水色のシルクドレスを身にまとっていた。慣れないコルセットにエルナは眉をひそめ、この状態があと一日半以上続くのかと思うと途方に暮れた。今すぐ脱いでしまいたいとさえ思う。
(このままじゃ苦しくて寝ることもできないわ。……気分を紛らわすために、外の景色でも眺めていよう。この道を走るのも、これが最後だろうから)