交際0日、冷徹御曹司に娶られて溺愛懐妊しました
吉鷹の結婚は社内に漏れ伝わっていたが、その相手がメインバンクの頭取の娘というのは数人の側近にしか伝えられていなかった。永長もそのひとりに数えられる。
それが幸いし、ハワイで身代わりが花嫁を演じたことも、そのまま結婚する予定であるのもほとんどの人間が知らない。
「しかも、とても機嫌がよろしいようで、秘書としても大変助かっております」
永長に指摘されて初めて、吉鷹は心が穏やかだと気づく。ここ最近、社長就任への重責で苛立つことがあったが、それはいつの間にか解消していた。
『彼女はもともとよく知らない相手だから感傷的な気分にはなりようがない。そもそも結婚に夢は見ていないし、紙切れ一枚だけの関係。仮面夫婦になるのは目に見えていたから』
ハワイの挙式後、平然としている吉鷹が気に入らなかった茉莉花に反論した自分の言葉が頭を過る。
それは本当だった。
両親の仲は、吉鷹が幼い頃から冷えきっていた。建設会社同士の政略結婚だったふたりは当時、それぞれ好きな相手がいたと聞く。それでも親の意向に歯向かえず、流れに沿って結婚に至った。