交際0日、冷徹御曹司に娶られて溺愛懐妊しました
茉莉花は彼女を立たせ、荷物を準備するよう急かした。ドレスに着替える前だったのが幸いし、数分で結愛が用意を完了する。
脱ぎ着しやすいように可憐なワンピースを着ているとはいえ、華々しいメイクとのアンバランスさが、今の状況をなによりも物語っているよう。式直前に逃げ出す花嫁の姿そのものだ。
控室のドアを開け、近くに誰もいないのを確認。彼女を伴い、そこを出た。
「こちらです」
結愛を先導し、通路を小走りにいく。関係者に鉢合わせしませんようにと祈りながら、チャペルのエントランスに到着した。
ハワイ特有の心地よい風が吹き抜けていく。茉莉花たちの憂いなど知る由もなく、真っ青な空が頭上に広がっていた。
誰かを降ろしたばかりなのか、偶然にも横づけされていたタクシーに彼女を乗せ、宿泊先のホテルまでお願いする。このあと結愛は、荷物を回収して帰国の途に着くだろう。
彼女から想いを打ち明けられ、式場から立ち去るまで十分。あっという間の出来事だった。
走り去っていくタクシーを見送り、控室へ戻る。これからが茉莉花の正念場だ。