交際0日、冷徹御曹司に娶られて溺愛懐妊しました
ここで誤魔化しても意味はない。明瞭にそう告げた。
ブライダルアテンダーがみるみるうちに青ざめていく。
「し、新郎様にお伝えしてきます!」
弾かれたように控室を飛び出した靴音が速いリズムで遠ざかる。そして、ものの一分もしないうちに大勢の足音とざわめきがいっぺんにこの部屋に向かってきた。
黒い燕尾服に身を包んだ結愛の父親が、ドアを開けて飛び込んでくる。
「結愛が帰ったとはどういうことですか!?」
大手銀行の頭取だけあり、頭の切れそうな紳士だが、さすがに大慌てだ。
「結婚を取りやめたいって、結愛が言ったの!?」
彼の後ろから上品そうな母親が現れる。シックな黒のワンピースが足元で揺れていた。
「……はい。ほかに好きな方がいらっしゃるそうです」