交際0日、冷徹御曹司に娶られて溺愛懐妊しました
茉莉花がひとりで暮らすアパートは静かな住宅街にある。職場まで電車の乗り換えがなく、駅からの徒歩を含めても二十分ほどで着くため通勤には割と快適だ。
ベージュの外観の三階建てには、一応オートロックもついている。大学を卒業してマリアンジュに就職したときには実家暮らしだったが、二年前に『一度はひとりで暮らしてみたい』と両親を説得して念願が叶った。
吉鷹の車がそのアパート前に停車する。
「今日はご馳走様でした。とてもおいしかったです。ありがとうございました。では」
挨拶をあれこれ並べて早々に車を降りようとしたが、吉鷹に「ちょっと待て」と引き止められた。
「コーヒーでもどうですか? とかいうのはないのか」
「な、なんですかそれ」
「男女の機微」
「すみませんが、よくわかりません」
髪が頬にあたるほど首を勢いよく横に振る。ちょっと強く拒絶し過ぎただろうかと申し訳ない気持ちも、少しだけ芽生えた。
「冗談だ。プロポーズの返事をまだ聞いてない」