【書籍化に伴い冒頭のみ公開】クールな御曹司の溺愛ペット
秘書の仕事は副社長である一成さんのスケジュール管理から始まる。ほかにも、電話やメール、来客対応や情報管理、そして環境整備などといった業務内容があり、まずは社長の秘書を務める時東茜さんが私の教育係となった。
時東さんは二十七歳。新卒で塚本屋に就職したエリート社員だ。グレーのパンツスーツがよく似合う美人さん。くっきりとした目元が印象的で、けれど決して派手ではなく知的な印象を与える。
「先に言っておくけど、副社長に恋心は抱かないこと」
「こ、恋ですか……?」
ドキッと肩が震える。なにか見透かされているのかと緊張が走ったが、どうやらそうではなさそうだ。
「そう、ここだけの話、罪な男なのよ、副社長は。秘書になった子を毎回泣かせてダメにする」
「泣かせる?」
「あの容姿とスペックの良さで女子は皆恋焦がれるんだけどね、反面仕事に厳しいし視線だけで人を殺しにかかるから、間違って告白した日にはくだらないって一蹴されて泣きを見るの」
「う、うわぁ……」
と言いつつ、視線で人を殺しにかかるって……想像もつかない。まあ確かに見た目は不愛想で冷たい印象はあるけど、笑わないわけではないし、昔も今もそんな怖い思いはしたことがない。
「片山さんはここが初めての就職先だって聞いたわ。大変なこともあると思うけど一緒に頑張りましょうね」
「はい、お願いします」
時東さんは優しく微笑んでくれ、私はほっとした。
面接と同じように初対面の人と話すことは緊張するけれど、こうしてフレンドリーに接してもらえると私も落ち着いて受け答えができるのだ。