恋がはじまる日

「あの、藤宮くん怒ってる?」

「別に」


 二人で並んで歩く帰り道。

 日中のうちに誰かが雪かきをしてくれたのか、道の端にこんもりと雪の山が出来ていた。歩道は少し雪が残る程度で、大分歩きやすくなっている。


 さっきから藤宮くんの不機嫌オーラが消えない。


「あの、藤宮くんごめんね。勝手に席を外して」

 私がそう謝ると、藤宮くんは呆れたようにため息をついた。


「そうじゃない、俺は、」

 そこで言葉を切ると、藤宮くんはまた盛大にため息をついた。その表情はいつもの見慣れたもので。


 私、呆れられてばっかりだなぁ、と少し気落ちしてしまう。せっかく両想いになれても、彼女がこんなんじゃ藤宮くんも嫌だよね…。そもそも彼女なのかも分からないし。


 無言でただただ歩く。


 せっかく両想いになれたと思ったのに、わたしのせいで嫌な気持ちにさせちゃったかな。

 今朝藤宮くんと会った十字路に差し掛かる。正確な位置は分からないけれど、いつもこの辺りで会うから、きっと藤宮くんのお家は角を曲がった先にあるのだろう。


「えっと、嫌な思いさせてごめんね。またね」


 私はそのまま直進して自宅方面へと足を向けようとした、しかし「佐藤」と呼び止められた。


 私はどんな顔をしていいのか分からず、ぎこちない笑顔を浮かべる。


「どうしたの?藤宮くん」

 すると藤宮くんは、少し照れたように視線を外した。

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