恋がはじまる日

 最近は部活も忙しかったし、椿のお家に来られていなかったけれど、敷かれているマットの色や飾られている置物、ちょっぴり高そうな絵画の位置も全然変わっていなかった。階段を上がって、一番手前の部屋が椿の部屋だ。

「お邪魔しまーす」、と小声でつぶやきながら部屋へと踏み入る。

 入ってすぐ目にとまるのは、部屋の中央に置かれている小さな折り畳み机。中学の頃から勉強するときはいつもこの机だった。
 普段ここに来るときはそうしているように、ベッドを背にして腰を下ろす。

 部屋をじろじろ見るのも失礼かな、と思いながらも今更そんなところに気を使う仲でもないか、と床に散らばっている漫画を綺麗に積み上げたり、朝慌てて着替えたのか丸まっているパジャマを畳んで枕元に置いたりと、少し整頓をしたりして過ごした。


 するとまもなくして、


「おまたせー」


 と椿が二リットルペットボトルのお茶と、グラスを持って入ってきた。


「お、なんかちょっと片付けてくれた?」

「うん、ちょっとね」

「今日美音来ると思ってなかったから、散らかしたままだったわ、サンキュー」


 椿がお茶やお菓子を広げる横で、私は教科書とノートを取り出した。今日は特に課題は出ていなかったけれど、数学の復習をしておきたいな。


「椿が一緒に勉強しようなんて誘ってくれるの、珍しいじゃん。さては、中間テストがあまり良くなかったな?」


 そう冗談交じりに話しながら勉強の支度をしていると、


「美音、勉強の前にさ、ちょっと話してもいい?」


と声を掛けられた。
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