黒い龍は小さな華を溺愛する。

「くっそ……」と言いながら、


伊田くんが必死に自分の唇をTシャツの裾で拭いていた。


私はさっきの衝撃で唇が切れたのか、血の味がしてきて。


一瞬唇が重なった……。


初めてだったのに……。


私が茫然としていると、


「ちょっと、晃汰!上からすごい音したんだけど大丈夫!?」


誰かが階段下から叫んだ。

一階にいた相羽くんのお母さんだろう。


「やばっ母ちゃん!?」


と、2人が慌てふためく。


……いまだ!


私はその隙を見てワンピースを上から被り、一目散に部屋を出た。


足がもつれて階段から落ちそうになるのを必死に耐える。


「おい!待てよ!」


相羽くんの怒鳴り声が聞こえたけどもう振り返れない。



相羽くんのお母さんは私の姿を見て、


「え!?何!?」と一瞬驚いていたけど、私は顔も上げずに家を飛びだした。


震えていたけれど、足の速さだけは自信ある。


こんな時に役立つなんて……。

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