愚かな男を愛したセリーナ
――セリーナは命をかけて庇ってくれたセドリックに、……恋をした。

 だが、セリーナの顔に残った傷は、癒えなかった。守れなかった責任を父親から問われたセドリックは——不本意ながらもセリーナと結婚することになった。式は行わず、書類を提出しただけだった。

 セドリックの恋心を知っていたセリーナは、彼に伝える。

「セドリック、二年間だけ、我慢して。白い結婚が認められれば、離婚が認められる。二年も経てば、父も許してくれるわ」
「だが、それでは君は……!」
「私は、いいの。あの子を愛しているなら、形だけの結婚でいいから」

 こうして二人は形だけの結婚をして——夫婦として暮らし始めたが、指輪もしない二人の関係を知るものは少ない。

 セドリックは義妹となったアイラだけを見つめていた。時には二人きりで過ごすこともあり、アイラはそれを姉に伝えた。

「セドリックはお姉ちゃんの夫だけど、私のことが好きなんだって。お姉ちゃん、可哀そうね」
「アイラ、二年だけ待って頂戴。二年が過ぎれば、離婚できるから……」
「あら、別に構わないわよ、このままだって。セドリック義兄さんは優しいもの」
「……」

 セドリックの近くにいても、彼のこころはセリーナにはなかった。白い結婚と、セドリックの不倫は、二年も続いていた。



*****



「セドリック、飲みすぎよ。もう、二階で休んだ方がいいわ」

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