家の中になにかいます【短編】
元カレの浮気をみたといったとき、殺してやろうかと本気で殺気だっていたのはなだめるのが大変だった。期待しても、触れることはいつだってしなかった。近くて遠い、彼は。

わたし昇進の話をして、彼はずっと黙って相槌を打っていた。
その顔はいつもは楽しそうに聞いていたはずの顔ではなく、眉を寄せ苦悶の表情だった。

「どうしたの?クロウ」

「……帰る方法がわかった。俺は来週自分の国へ帰る」

冷や水を浴びせられたような気分だった。
美味しかったごはんが砂利を噛むようなものに変わった。
とうとう、彼は。ついに、彼は。

「おめでとう!えっと、二年もいたもんね。なんだか、こう言葉に詰まるね。頭が分かってるんだけど混乱してて」

「あぁ、本当に、今までありがとう。こんな見ず知らずの男を拾ってくれて」

ちゃんと笑えているだろうか、声は震えていないだろうか。
クロウの表情はわからない、何を考えているのか分からなかった。
いつもと変わらない水色の瞳なのに死んだ魚の目みたい。

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