家の中になにかいます【短編】
お互いそこから話に詰まってしまって、黙って食事をした。
寝るとき、いつも背中を向けていた。豆電球にしてぼんやりと光るオレンジ色を見つめていると、後ろからおずおずと抱きしめられたのがわかった。身体が思わずこわばった。
こんなこと二年間で初めてのことだった。

「そのままで聞いてほしい」

彼はぽつりぽつりと語りだした。
いつも元のいた世界では戦に明け暮れていて、平和なときなんかなかった。
それがこちらに飛ばされ、平和というものを知った。
元いた婚約者は別で恋人を作っていて、それは自分の両親もそうだったから当たり前だと思っていたこと。
それが寂しいという感情だったのも、この世界にきて初めて知ったと。
色んな人が笑いあっているこの国で、居心地のいい生ぬるく幸せなのは自分にとって足りないものが満ちていく感覚だったと。

「その中でも真奈美は俺にとって太陽だった。こんな警戒心のない人間が生きていけるなんて思いもよらなかった。逆に俺が警戒した。でも真奈美のお人よしに幼少期だった自分が求めていた母性を感じて、甘えてた。泣きたくなるくらい嬉しかったんだ。本当に。いつまでたっても子ども扱いなのが癪に触るけど嫌じゃないんだ。真奈美は酒を飲むたびに自分のことを卑下するが、そんなことない。誰よりも魅力的なんだ」

そんなこと、言われても。

いつの間にかオレンジはぼやけていて、抱えられる腕にシミをつくってしまう。
抱きしめる腕は雫が落ちるたび強くなっていく。

「帰ることができるって向こうの騎士団の仲間が通信を飛ばしてきたとき、現実に引き戻された。昔の仲間の声を聞いただけでなく、ボロボロな姿を見せたからだった。俺は副団長だ。元々ここは俺の居場所じゃない。俺は元の世界で居場所を作るんだって思った」

その責任感が今は憎い。かれは堅実、実直、誠実なのだ。
彼のそういうところが好きだ。その一本筋が通っているところが。
元々戦争中に異世界に飛ばされたといっていた。もといた場所がどうなっていたか気になるのも当然なのだ。自分が前線に立っていたのだから。
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