姫の騎士
「そうだな、いろいろありそうだ。まず、壁の障害物でアンの脚がつかまれ、引きずりおろされかけた。二人同時に上がれず先に上って引き上げようと思たのだろうが、下には上がれずに苦労しているヤツがいて、お前たちは友好的でなかった。なら、自分が先に上がってアンへの守りが手薄になるとわかっているのならば、上がるまえに先に、憂慮の種は潰しておくべきだった」
 過激な発言に、セルジオは衝撃を受ける。
「殴ったりしておくべきだったというのですか」
「殴ったり脅したりしておくべきだった。それに、今回運ぶ砂の弱点が水だとの着眼点はよかった。だから、水の障害物のところで4人がそろった時に、ライバルたちのリュックを水に沈めるとか積極的な方法を取れば、僅差ではなくて確実に勝利をえられたはずだろう」

「……一点でも勝ちは勝ちだと思ってましたので。それに実践に即して競いましたが、競った相手は敵とも仲間とも考えられましたから」
「あははは。脚を引っ張るヤツは、絶対に仲間にはなり得ない。だが、俺は甘いところもあるがあんたが気に入った。特に、アンが喜んでいるからな。アンは障害物競争に出たがっていた」

 アンははらはらとセルジオとジルコン王子のやりとりをうかがう。
 その間に、5位以下がよろよろとゴールするが、ジルコン王子は彼らにひとかけらの興味もない。
 じっと、セルジオを見つめ続ける。
 自分の大事なものを預けることができるかどうかを、見定めている目だと思った。
 セルジオは自分はこの勝利で一足飛びに姫の騎士に決まる予感があった。
 だが王子は決定的なことを口にせず、セルジオから視線を逸らした。

「次に進むのは、セルジオ、ルイ、カルバンの三名!最終は数日内に、この三名の内から我が妻のアデールの姫に決めてもらうことにする!みんなご苦労だった!」

 王子の宣言に、わらわらと片付けが始まる。
 五位までに入ったものの、騎士になる可能性が潰えて肩を落とす者もいる。
 セルジオの元には、試合中に罵ったことを謝りに来るものもいた。
「あんたたちの誰かが選ばれても、わたしは祝福するわ。あなたが赤毛だからって理由で排除されないことを願うわ……」
 彼らの最後に、ミシェルが鼻をすすりながらぽつりとつぶやいた。
 たくましい肩を小さく落として去っていく。

「ったく。ミシェルのヤツ、最後ははしおらしくなったと思ったのに。あいつの言葉なんか気にするな。姫騎士選びは実力勝負だった。赤毛だからという理由で選ばれないということはないぜ」

 ルイは、セルジオが赤毛だからという理由で落とされてきたことを知っている。赤毛は傭兵の印のようなもの。

「これで、わたしたちのいずれかが決まるということが確定したわけですね」
 カルバンが感慨深げにいい、視線を遠くに向ける。
「そしてとうとう、我らの姫さまとご対面ということですね。楽しみのような、恐ろしいような、不思議な心持です」

 王子の豪奢なマントを纏い、アンは王子と黒騎士たちと共に王城へ向かっていく。
 セルジオも、アンの姿が見えなくなるまで追い続けた。





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