お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「どんな人なんですか? 逢坂先生のご主人」

 川島先生が別の角度から質問を投げかけてきた。改めて大知さんの姿を頭に思い描く。

「真面目で優しくて……とても責任感の強い人です」

 裁判官としても夫としても、彼を尊敬している。

 私の発言を受け、萩野先生は目をキラキラとさせた。

「あら、素敵。ところで、ご主人待っているんじゃない? 引き止めてごめんなさいね」

「い、いいえ。まだ帰っていないと思います。忙しい人なので」

 慌ててフォローし、むしろ時計を確認して急ぎだす萩野先生をその場で見送る。川島先生と取り残される形になり、妙な沈黙が走った。

「あ、逢坂先生。よかったら連絡先を教えてもらえません?」

「え?」

 唐突に切り出され、目が点になる。手早くスマホを取り出す川島先生に対し、動けずにいると彼は困惑気味に微笑んだ。

「無理に、とは言いませんけれど、仕事でなにかあるかもしれないから」

「……はい」

 職場の同僚と連絡先を交換するのは、なんらおかしいことではない……はずだ。前に勤務していた幼稚園でも、職員同士何人かと個人的にやりとりがあった。ただし全員、女性だったけれど。

 ここで異性だからと線引きするのも妙だと思い、川島先生と連絡先を交換する。

「また連絡しますね」

 そう言われてどこかうしろめたさを覚えるのは、私があまり異性に慣れていないからだ。

 昔から男性が苦手で、大知さんと結婚するまで異性と付き合うどころか、個人的に親しくした経験もない。とはいえ私情を仕事にまで持ち込むわけにもいかない。
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