お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「いつも言っているだろ。律儀に待たなくていいんだぞ」

 私が夕飯を食べていないと気づいた大知さんに軽くたしなめられる。でもこの応酬も今に始まったわけじゃない。

「わかっています。でも、私が大知さんと一緒に食べたいから」

 夫婦として少しでも同じ時間を過ごしたい。向き合いたい。大知さんが忙しいから尚更。

 とはいえ私が待つのが大知さんの負担になるならいやだ。その旨も伝えようとしたら頭に彼の手が置かれる。

 上目遣いに彼を見ると、大知さんは優しく微笑んでいた。その表情に胸が高鳴る。

「ありがとう。毎日弁当も作ってくれて感謝している」

 大知さんはこうやって、私に対して一つひとつをきちんと言葉や態度で労ってくれる。そこを惜しまないのが彼らしい。

「い、いえ。お口合っているなら嬉しいです」

「うまいよ、千紗の作るものはなんでも」

 臆面もなく褒められると嬉しいのと同時にむず痒い。頭にのせられている手は大きくて、伝わる温もりに心拍数が上昇しそうだ。

 きっと大知さんは意識していないんだろうな。

「ひとまず着替えてくる」

「あ、はい。私も夕飯の準備をしますね」

 気持ちを切り替え、彼から離れてキッチンに足を向ける。これくらいで動揺していたら身が持たない。大知さんにとってもきっと取るに足らないことだ。

 食事中、向かい合って座りながらもとくに会話が弾む様子はない。元々大知さんはお喋りな人ではないし、私も彼を前にするとどうもうまく話せない。

 そこで大知さんから私の仕事について話を振られ、笑顔で答える。やっぱり関心を持ってもらえるのは嬉しい。
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