【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
「胡桃っち」
『…!』
その時、背後からギィ…とベランダのドアが軋む音がして、誰かが小声で私の名前を呼んだ。
そうだ、ベランダがあった、ここからなら逃げられる…!
「こっちおいで、この隙に逃げるよ」
サッとベランダから忍び込み、私に向かって細い手を差し出してきたのは天音くんだった。
別の入り口からベランダへ回り込み、外側からこの教室のベランダへ侵入してきてくれたのだろう。
私は迷わず差し出された手を取ろうとしたけど、ほんの一瞬…ほんのコンマ何秒かだけ、身体が強張って躊躇してしまった。
すぐに天音くんの手をギュッと握り返し、ベランダ越しに外へと飛び出して一緒に走り出したけど……今の私の一瞬の迷いは、天音くんに伝わってしまった気がする。
……こんな時に警戒してどうするの…!
自分自身に言い聞かせるけど、いつもは飄々としている天音くんの表情が、今はいつになく真剣で冷ややかだった。
昨日のこともあって、そのどこか浮世離れした横顔に、胸の奥でどうしても消えない小さな違和感を覚えてしまう。
「胡桃っち、なんかめちゃくちゃ俺の事警戒してるでしょ?」
前を走ったまま、天音くんが振り返りもせずに言った。
『だって…』
…昨日いきなり、キスされたし。
警戒しろって言ってきたの、そっちだし。
「まーそれで正しいんだけどさ」
『ていうかっ…どこまで走るの…っ!?』
言葉の意味を深く考える暇もないほど、強く手を引かれて夢中で足を動かした。
吸血鬼である天音くんと私とでは、足の速さも体力もまるで違う。
息がすぐに上がってしまい、肺が激しく上下する。
「もーちょっと頑張れる?学園内はBSのやつらがそこかしこで見張ってるから、一旦学園の外に出るよ」
『…っ朔も、来てるの?』
「多分、今叶兎が相手してる」
叶兎くんが…!?
というか朔、ほんとに何考えてるの?
BSの人達が言ってた“ボス”って、BSの総長である朔の事だよね?