総長は、甘くて危険な吸血鬼
「胡桃っち」
『…!』
その時背後でギィとベランダのドアが軋む音がして、
誰かが小声で私の名前を呼んだ。
そうだ、ベランダがあった、ここからなら逃げれる…!
「こっちおいで、この隙に逃げるよ」
そう言って私に手を差し出したのは、天音くん。
ほかの入口からベランダに入って外からこの教室のベランダに入ったのだろう。
ここからなら逃げられる。
私は差し出された手を取ろうとしたけど、
一瞬、ほんの一瞬だけ躊躇ってしまった。
すぐに手を取って一緒に走り出したけど…今の私の迷いは伝わってしまった気がする。
逃げる手伝いをしてくれてるのに、こんな時に警戒してどうするんだって話ではあるんだけど…
いつにも増して真剣な表情の天音くんに、
どこか違和感を覚えた。
「胡桃っち、なんかめちゃくちゃ俺の事警戒してるでしょ?」
『だって…』
…昨日いきなりキスされたし
警戒しろって言ってきたのそっちだし
「まーそれは正しいんだけどさ」
『ていうかっ…どこまで走るの…っ!?』
彼に手を引かれてただ夢中で走る。
足の速さが全然違うから、私の息はすぐに上がってしまった。
「もーちょっと頑張れる?学園内はBSのやつらがそこかしこで見張ってるから、一旦学園の外に出るよ」
『…っ朔も、来てるの?』
「多分、今叶兎が相手してる」
叶兎くんが…!?
というか朔、ほんとに何考えてるの?
BSの人達が言ってた“ボス”って、BSの総長である朔の事だよね?
けれど、考える暇も与えられないくらい、天音くんは強く手を引いて先を急いだ。