総長は、甘くて危険な吸血鬼
『…関係なくないよ。勝手にこんなところまで連れ去っておいて、体が勝手に動いたとか言って助けるし、』
「じゃあ敵になればいい?こんな密室で、吸血鬼の男が相手で。どうにかなると思ってんの?」
『それは…』
「……早く行けば。帰るんでしょ」
“行けば”って…
私をここに連れてきたの貴方なんだけど…。
天音くんの横顔を見ても、もう何を考えているのか分からなかった。
ただ、その奥にかすかな苦悩がちらついているのだけは、確かに見えた。
でも本気で踏み込んで欲しくなさそうだし、私が聞いたところできっと役には立てないんだろう…。
考え込んでいると、不意に天音くんのものでは無い声が響いた。
「おい、」
ハッと顔を上げる。
扉の奥から聞こえた声。
…扉の向こうに、誰かいる。
まずい。
ここは逃げ場のない密室。
もし開けられたら、私が逃げ出そうとしていることが一瞬でバレてしまう。
「そこにいんのか?」
ドアノブがガチャ、と回される音。
私は慌てて部屋の中を見回し、近くのソファの後ろにしゃがみ込み意味を潜めた。
あれ、でもこの声どっかで…