総長は、甘くて危険な吸血鬼


捕まえようにも姿が全く見えず、視界を塞いでいた煙が晴れた時には、もう奴らの影はどこにもなかった。

倒れていたはずの連中すら跡形もなく。
さっきまでの喧騒が嘘みたいにあたりはしんと静まり返る。

俺はバッと後ろを振り向いて胡桃が無事でいる姿を確認したら、
居ても立ってもいられず駆け寄ったままの勢いで、強く抱きしめた。


「…胡桃!」

『わっ…!』


その声に我に返るが、腕の力は緩められなかった。

逃げられた悔しさよりも、胡桃がここにいる安堵の方が圧倒的に勝っていた。

朔にまた逃げられたのは不服だけど、追いかけることもできないし、一旦BSのことは後で考えよう。


「無事でよかった…」


文化祭の途中、
BSに胡桃が連れ去られたって秋斗から連絡が来て本気で焦った。

真っ先に追いかけるつもりだったけど、そのタイミングを見計らうように反対方向から朔達が学園に入ってきて。学園を守る生徒会長の立場として流石に見て見ぬ振りはできなかった。でも何か仕掛けてくる訳でもなく、ただ足止めをされてるだけって気づいた時にはもう遅くて。


今まで誰か1人の相手を好きになる事なんてなかったから、こんなに不安になるなんて知らなかった。


…俺に弱点なんてなかった筈なのに


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