【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
『っ…』
どんな状況でも、叶兎くんはいつだって……必ず助けに来てくれる。
背後には、炎と煙を背負うようにしてWhite Lillyのみんな、そして蓮水さんの姿もあった。
大好きな叶兎くんの元へ、今すぐ泣きながら駆け寄りたい衝動に駆られるけど……目の前の狂暴な現実がそれを許してはくれなかった。
私は湧き上がる衝動を必死で押し殺し、壊れた喉を振り絞るようにして大声で叫んだ。
『……来ちゃダメ!! 叶兎くん、来ないで……っ!!』
響いた声に、叶兎くんは目を見開く。
まだ状況を飲み込めていない様子だったけど、朔の手にある黒い拳銃を認めた瞬間、その表情が驚愕に染まった。
「っ!!なんで、お前そんな物…!!」
「動くな」
次の瞬間、朔の腕が後ろから腰に回り強く拘束された。
抵抗する間もなく、こめかみに冷たい銃口が押し当てられる。
焼け焦げた瓦礫の匂いも、崩落しかけた建物の軋みも、すべてが遠のいていき、空気が一変した。
その場にいる誰もが、目の前の光景に言葉を失う。
『…朔、?』
震える声で、すがるように名前を呼ぶ。
けれど、返ってきたのは氷のような冷たい沈黙だけだった。
どこまでも冷静を装っている朔だけど……私のこめかみに当てられた銃口越しに、朔の手元がかすかに、プルプルと震えているのが伝わってきた。
…………違う、朔は私を撃つ気なんて、ない。
狙いは叶兎くんで、油断させようとしてるんだ。
『叶──』
「黙って」
囁きと同時に片手で口元を塞がれた。
もう片方の手にある銃口は、さらに強く押しつけられる。
「…何で胡桃に銃を…!お前、そこまで堕ちたのか?」
叶兎くんの瞳は怒りと焦りに燃えていた。
普段の冷静さは欠片もなく、ただ必死に感情があふれている。
朔はなにも答えず、ただわずかに引き金を撫でるだけ。
その無造作な仕草に全員の喉がひゅっと鳴った。
沈黙の中で、息を呑む音だけが鮮明に響く。
「今すぐ立ち去れ。こちらに近づくなら…撃つ」
淡々と告げられたその言葉は、その冷静さが余計に恐ろしかった。
張り詰めた均衡に、誰も不用意に動けない。