【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
【side叶兎】
突然、自分に向けられた銃口に、空気が凍りついた。
こいつ…まじか。
さっきからもう、さすがに度を超えすぎてる。
けれど、引き金を引く気配はない。
朔はただ銃を握りしめたまま振りかざしてきた。
その視線の奥には、迷いと焦燥が混じっている。
「……んでそこまで、胡桃にこだわる…!」
振り抜かれた重い拳銃の打撃を腕でガツンと受け止めると、金属の強烈な重みが骨を軋ませ、腕の奥深くに鈍い激痛が走り抜けた。
それでも……絶対に一歩も下がるわけにはいかない。
俺のすぐ後ろには、胡桃がいるから。
それにしても、銃口を向けておきながら、弾を撃てば一瞬で済むものを、わざわざ武器として直接殴りかかってくるなんて。
朔……お前、本当は最初から銃を撃つ度胸なんてないんだろ。
能力が直接的な身体強化である俺に、力比べの肉弾戦で勝てるはずがない。
それくらい分かってるはずなのに、朔はただがむしゃらに、力任せに俺へと飛び込んでくる。
「君は、守るものが多すぎる」
ガツンと腕を交差させながら、淡々と吐き出された朔の声。
その言葉の意味に、俺の思考が一瞬ピタリと止まった。
「いろんな人から慕われて。十分すぎるぐらい愛されて生きてきたんでしょ」
「……は?何……嫌味?」
でも、その声音は自分を嘲るようでもあり、どこか哀しげだった。
「僕は違う。」
俺の反応なんて最初から気にも留めない様子で、朔は自嘲気味に言葉を紡いでいく。
「小さい頃から、この“能力”のせいで皆、気味悪がって離れていった。目を合わせれば怯えられて、触れれば避けられる。結局、誰も僕と本気で関わろうとしなかった。」
「……」
その時、横目に映った天音の表情が苦悩に歪んだ。
周りの人間から愛されずに、孤独の中で生きてきた。
誰からも必要とされず、化け物扱いされて遠ざけられてきた。
…同じ境遇を抱えてきた、朔と天音。
そう思った瞬間、すべてが腑に落ちた気がした。
天音が朔を裏切りたくないと俺たちを拒んだ理由も。
朔が天音をBLACKSKYに引き入れた理由も。
朔はただ戦力が欲しかっただけじゃないのかもしれない。
“自分と同じ孤独を知る人間”を、見捨てられなかったんだ。
だからこそ、天音の苦しげな視線は、残酷なほど雄弁に語っていた。
朔の言葉は真実であり、偽りなく過去そのものなのだと。
きっとその苦しみは、俺では到底理解出来ないものだ。