【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ



【side叶兎】




突然、自分に向けられた銃口に、空気が凍りついた。


こいつ…まじか。

さっきからもう、さすがに度を超えすぎてる。


けれど、引き金を引く気配はない。

朔はただ銃を握りしめたまま振りかざしてきた。


その視線の奥には、迷いと焦燥が混じっている。



「……んでそこまで、胡桃にこだわる…!」



振り抜かれた重い拳銃の打撃を腕でガツンと受け止めると、金属の強烈な重みが骨を軋ませ、腕の奥深くに鈍い激痛が走り抜けた。


それでも……絶対に一歩も下がるわけにはいかない。

俺のすぐ後ろには、胡桃がいるから。


それにしても、銃口を向けておきながら、弾を撃てば一瞬で済むものを、わざわざ武器として直接殴りかかってくるなんて。



朔……お前、本当は最初から銃を撃つ度胸なんてないんだろ。


能力が直接的な身体強化である俺に、力比べの肉弾戦で勝てるはずがない。

それくらい分かってるはずなのに、朔はただがむしゃらに、力任せに俺へと飛び込んでくる。



「君は、守るものが多すぎる」



ガツンと腕を交差させながら、淡々と吐き出された朔の声。

その言葉の意味に、俺の思考が一瞬ピタリと止まった。



「いろんな人から慕われて。十分すぎるぐらい愛されて生きてきたんでしょ」

「……は?何……嫌味?」



でも、その声音は自分を嘲るようでもあり、どこか哀しげだった。



「僕は違う。」



俺の反応なんて最初から気にも留めない様子で、朔は自嘲気味に言葉を紡いでいく。



「小さい頃から、この“能力”のせいで皆、気味悪がって離れていった。目を合わせれば怯えられて、触れれば避けられる。結局、誰も僕と本気で関わろうとしなかった。」

「……」



その時、横目に映った天音の表情が苦悩に歪んだ。



周りの人間から愛されずに、孤独の中で生きてきた。

誰からも必要とされず、化け物扱いされて遠ざけられてきた。



…同じ境遇を抱えてきた、朔と天音。



そう思った瞬間、すべてが腑に落ちた気がした。



天音が朔を裏切りたくないと俺たちを拒んだ理由も。

朔が天音をBLACKSKYに引き入れた理由も。



朔はただ戦力が欲しかっただけじゃないのかもしれない。

“自分と同じ孤独を知る人間”を、見捨てられなかったんだ。



だからこそ、天音の苦しげな視線は、残酷なほど雄弁に語っていた。

朔の言葉は真実であり、偽りなく過去そのものなのだと。



きっとその苦しみは、俺では到底理解出来ないものだ。



< 336 / 406 >

この作品をシェア

pagetop