総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
「…俺は、全部諦めない」
俺は拳を握りしめ、絞り出すように言った。
「胡桃も、White Lillyも、仲間も、街も。全部。…それが、赤羽叶兎だから」
拳が朔の体を突き飛ばし、壁際へと叩きつける。
瓦礫が崩れ煙が巻き上がる中で、朔は咳き込みながら崩れ落ちた。
「っ…けほっ…げほ、…。君は、欲張りだな…そんなの、無理に決まってるっ…。」
数秒、短い沈黙が流れる。
「……その中には、お前も含まれてる。朔。」
その言葉に、朔ははっと顔を上げた。
驚愕とも、戸惑いともつかない表情。
俺は別に朔のことを好きでも嫌いでもない。
いやまあ今までの行いからしてどちらかといえば嫌いだけど。
……でも、この街の一員で、胡桃の大事な友達なら、それだけで守る理由には十分。
胡桃が朔を助けたいと思うなら、俺もそうする。ただそれだけ。
「馬鹿みたい。」
吐き捨てるような声が、かすかに震えていた。
周囲は煙が濃くなり、建物の軋みは限界に近い。
…そろそろ決着をつけないと。
まずは全員で脱出すること、それが最優先だ。
朔の方へ一歩距離を詰めた、その時。
「……っ!?」
突然全身から力が抜け落ち、膝が勝手に折れ、床に叩きつけられた。
全身の血が一気に冷えて手足が鉛のように重くなる。
立ち上がろうとしても、身体が動かない。
…契約の反動……!?
先ほどまで全身を駆け巡っていた熱は跡形もなく消え、代わりに虚無の冷たさだけが残っていた。
朔の影が、ゆらりと俺を覆った。
手には拳銃。
冷たい銃口が、動けず崩れ落ちた俺へと向けられる。
「叶兎っ…!!」
仲間たちの叫び。駆け寄る足音。
でも、もし朔が今引き金を引いたらこの距離じゃ間に合わない。
……けれど、それよりも速く。
俺の背から、胡桃が飛び出した。