【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ



「……胡桃!?!」



もう、焦りどころじゃなかった。

胸の奥を鷲掴みにされたように呼吸が乱れる。


…胡桃はいつだってそうだ。

誰かが危ないと分かれば、考えるより先に体が動いてしまう。

仲間のためなら自分が傷つくなんてお構いなしに無茶をする。



そんな呆れるほどの無鉄砲さが嫌で仕方ないのに……同時に、胡桃のそういう嘘がつけない真っすぐなところが、たまらなく好きで。

……でも、俺の知らないところでこんな風に簡単に傷ついて失われてしまいそうで、気が狂うほど怖かった。



「くーちゃんっ…!?」



銃を握りしめていた朔の細い瞳が、動揺で大きく大きく揺れた。

胡桃が死に物狂いで飛びついたのは、俺へと向けられていた銃を握る朔の腕。



「っ離せ…危ない、からっ…!」

『嫌、だ…っ!』



奪い合うように銃口が揺れた。

朔が振り払おうとしても、胡桃の手は決して離さない。


俺は必死に手足に力を込めるけど、未だ体は思うように動かず、唇を噛み締めるしかできなかった。



「くっ……!」



耐えかねた朔が、力任せにその細い腕を強引に振り払った。

胡桃の身体が弾かれたように宙を舞い、容赦なく硬い床へと叩きつけられて倒れ込む。



その激しい拍子に、朔の手から滑り落ちかけた銃の内部で、不気味な衝撃が走った。



──カチリ、と嫌な音。



次の瞬間、乾いた銃声が空間に響き渡った。

その場にいた誰もが、息を止める。



『──っ!!』



胡桃の身体がびくりと震えた。


肩口の布地が裂け、赤い染みがじわりと広がっていく。


直接深く撃ち抜かれたわけじゃなく、掠った程度の傷で派手な血の飛沫が舞ったわけじゃない。

けれど……それは紛れもない、本物の銃弾が刻んだ傷跡だった。



「胡桃っ…!!!!」



俺のすぐそばで、しゃがみ込むようにして崩れ落ちた胡桃を、かろうじて動くようになった腕で力任せに引き寄せ、自分の胸の中へ抱き留める。



『う、……っ…叶兎、く…』



小さな身体が俺の胸にすっぽりと収まると、震える声が耳元で微かに漏れた。


胡桃の肩口からは温かい血がにじみ出していて、俺の手をすぐに濡らしていく。


深くはない……けど、浅くもない。


いつもは大好きなこの甘い血の匂いも今は恐怖を煽る毒にしかならなくて、心臓が握り潰されそうだった。




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