【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ



「…っ、俺のせいだ…ごめん……」

『違……叶兎くんのせいじゃ、ないっ…』



胡桃は震える吐息をもらし、弱々しく俺の服を掴む。



「春流…っ!!!早く、治療を…!!」

「もうやってる!!」



血相を変えて駆け寄って来た春流が、胡桃の傷ついた肩にそっと手を触れ、静かに意識を集中させる。

春流の能力は、“治癒”。


傷の深さによっては多少時間がかかるけど、その腕前は確かなものだ。

春流の手のひらから、淡く温かい光とともに治癒の力が静かに胡桃の身体へと流れ込んでいく。


胡桃の持つ“無効化”の力には、相手の能力を弾くものと弾かないものの境界線があるけど……幸いなことに、春流の治癒の力は弾かれることなくスムーズに浸透しているようだった。


……胡桃自身が弱っているからか……それとも、心を許している仲間だからか……。


安堵で胸を撫で下ろす暇もなく、凪や天音、仲間たちが朔の攻撃から俺たちを庇うように、壁となって前に立ち塞がった。



「は、…………え…?」



その先にいる朔の顔は、凍りついたみたいに動揺で歪んでいた。

拳銃を握る手はカタカタと震え、瞳は大きく見開かれ、口元は何かを弁解しようとして開くものの言葉にならないかすかな情けない息が漏れるだけ。


まるで……自分が一体何を仕でかしてしまったのか、今になってようやく事態の重さを理解し、その罪悪感に押し潰されているみたいだった。


……は?なんだよその顔。


なんで……撃った側のお前が、そんな被害者みたいな顔してんだよ。



引き金をひいたのは……胡桃を傷つけたのは、お前だろ。



…………もう、許せない。



ねえ、胡桃、まだ朔の事友達だとか思ってる?

やっぱりさっきの言葉訂正していい?


ここまできたら、もういくら胡桃の友達でも俺は譲歩できない。

わざとじゃないとか、この際そんなの関係ない。



「おい」



胸の奥からこみ上げる苛立ちと怒りに任せて、朔を睨みつけた。

殺気が全身を覆い、俺にも理性なんてもう残っていない。


やっとのことでふらつく体で立ち上がり、一歩ずつ、朔の方へ距離を詰める。


やっぱりこの男は危険すぎる、いっそもう──



『待っ…て!』



静まり返った部屋に響いたかすかな声とともに、俺の腕が後ろから強く掴まれた。



「ちょ、胡桃ちゃん!?」



春流の焦った悲鳴が聞こえ、俺がハッとして振り向くと……そこには、胡桃がいた。

治癒を強引に振り切って、痛む身体を無理に動かして立ち上がっていたのだ。


青ざめた顔をした胡桃は、真っ直ぐに俺の瞳を見上げて、強い拒絶を込めて首を横に振った。





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