【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
【side胡桃】
叶兎くんの腕を掴んだ瞬間、傷口に力が入り熱い痛みがじわりと広がった。
撃たれた時の衝撃はまだ残っていて、脈打つたびに痛みが波のように押し寄せる。
震える指先にまだ残る、冷たい金属の感触。
…また、考えるよりも先に飛び出してしまった。
守りたい、その一心で。
でも、乾いた音とともに胸の奥を灼くような熱が走り、息がうまく吸えなくて。
血が溢れるのを感じて、全身の力が抜けていった。
当たったのが肩だったのが、不幸中の幸い。
朔は本気で私を撃つ気なんてなかった。
もし本気なら、とうに引き金は引かれていたはずだ。
銃を握りしめたまま身動きの取れない朔の顔が、なによりの証拠だった。
けれど、そんな朔とは裏腹に。
膝をついていたはずの叶兎くんがふらつきながらも立ち上がり、背に滲むのは、はっきりとした殺気だった。
一歩、また一歩。
朔へ向けて距離を詰めるその背に、私の知っている“優しい叶兎くん”はいない。
…だめ、このままじゃ、取り返しのつかないことになる…!
『待っ…て!』
だから、治療してくれていた春流くんの手を振り払って立ち上がり、叶兎くんの腕を掴んだ。
振り返った叶兎くんの瞳は、思わず恐怖で後ずさりたくなるほど鋭く冷たい殺気に満ちていて、私の心臓にどすんと深く突き刺さる。
今まで一度だって、こんな冷酷な視線を私に向けられたことなんてなかった。
いつもなら、どんなに怒っていても私と目が合えば柔らかく目元を緩めてくれたはずの真紅の瞳が……今は心に余裕なんてひとつも残していない。
「…何。離してくんない?」
声すら低く、感情を押し殺しているようだった。
もしここで手を離したら、叶兎くんは、朔を…。
「…胡桃さ。この状況で、まだあいつの事助けたいとか思ってないよね?…俺、もう限界なんだけど」
悔しさと怒りが混じった声。
それが全部、私のためだってわかるから、余計に胸が痛んだ。
『……わかってるよ…っ!!』
だから思わず、声を荒げていた。
痛みなんて忘れるほどに、必死だった。
『分かってる、撃たれたのも、危ない目に遭ったのも……!でもっ、朔は本気で、殺そうとして撃ったわけじゃない!』