総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
叶兎くんの眉がわずかに動く。
その奥に、怒りだけじゃなく戸惑いも滲んでいるのが見えた。
そして、無理に笑みを作った叶兎くんは、かすれる声で問う。
「…そんなに朔の事が好き?」
胸の奥がきゅっと縮んだ。
そう言われて、私は今までの行動を思い返す。
叶兎くんが私を想ってくれている気持ちを考えずに、危険に飛び込んでいく私。ましてやこの状況で敵を助けたいだなんて、叶兎くんからしたらどう思うのか。
私、全然考えらえてなかった。
『そうじゃない…!!私が好きなのは叶兎くんだよ!ただ、友達としては朔のことも大切なだけで…』
視線の奥にいた朔の肩がびくりと揺れたのが分かった。
呆然と、ただ目を見開いたまま固まっている。
銃を握る指先が今も小さく震え、普段なら絶対に崩さない冷たい表情の奥で剥き出しの痛みがにじんでいた。
「じゃあ、この手を離せよ」
張り詰めた空気に、誰も声を出せない。
本気で怒った叶兎くんは誰にも止められないのだろう。
『…叶兎くんが、…大事、だから…っ…大好きだから』
痛みと共に震えそうになる声を必死に抑えながら、私はそれでもまっすぐ言った。
『大事な人に、取り返しのつかないことして欲しくない…!今の叶兎くんを放っておけない…!』
叶兎くんは表情を変えず、そっと顔を背けた。
「……勝手にすれば」
低く吐き捨てるように言ったけど、その声はかすかに揺れている。
「でも、もしあいつがお前を傷つけるような事があったら……次はもう、許さない」
私は小さく頷いて、叶兎くんの腕をそっと離した。
目の前で、銃を握りしめたまま呆然と立ち尽くす朔。
その震える姿へと、ゆっくり歩み寄る。