私を、甘えさせてください
あ・・・・。


情報誌と飲み物がレジ袋に入れられ、それを受け取った空川さんの視線が、出入口にいた私に向けられた。


「美月・・」


その声は、オフィスのそれとは違ってほんの少し甘い。


動けなかった。

踏み出すことも、後ずさることもできなかった。


何か言いたいのに、喉の奥が詰まった感じがして、言葉が出てこない。


「美月、出入口にいたら危ない」


空川さんが私に近づき、手を取って外に連れ出す。


「あ・・何か買うつもりだったか?」


私は首を横に振る。


「そうか・・遅いから、マンションの前まで送っていくよ」

「・・・・」

「俺に送られても、気まずいか・・・・」


何も言わずに黙っている私に、空川さんは困った顔をした。


どうして、こんなことになってしまったんだろう。

私たちの間に、いったい何が起こったというのだろう。


酔っていることもあって、少し考えただけでじわっと涙が浮かんできた。


「美月・・どうした? でも、美月が泣いてるのは、俺のせい・・だよな」


私はまた首を横に振る。


「何も答えなくていいから、マンションの前まで送らせて。
こんな時間に、女性が泣きながらひとりで歩いてたら、本当に危ないから」


そう言うと、私の手を軽く握って歩き出した。


空川さん・・・・空川・・さん。


いっそ心の中のモヤモヤを、声を荒げてぶつけたら楽になるんだろうか。

考えてはみたものの、私にはそれができず、黙ったまま家まで歩いた。

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