極上の愛に囚われて
甘い声でささやくように言われると、鼓膜が悦びに震える。
「ううん、少しだけ」
「今日は驚いたよ。ほんとうに、脚を捻ったりしてないのか?」
彼は私の足元に座り込み、足首の辺りを観察するように見る。上等なスーツのまま膝をついているから焦ってしまう。
「やだ、立って、大丈夫だから」
慌てて促すと、彼は苦笑しながら椅子に座った。
「少しぶつかっただけだもの、大袈裟だよ。あのときも、わざわざ声をかけてくれるなんて、思ってもいなかった」
「どうにも心配だったんだよ。あのときみたいにやせ我慢してないか、確認したかったんだ。でもほんとうに怪我はないみたいだから、ホッとしたよ。でもいきなりぶつかられて、びっくりしただろう」
カウンターに肘をついて、私の顔を覗き込みながら髪を撫でてくれる。
「……うん」
クールな目元なのに優しい瞳が、私だけに向けられている。優しい声とあたたかい手のひらが、私の心をほんわかとあたためてくれる。
ずっとそうあってほしいけれど、彼を独り占めできる日はこない。彼には……小栗翔さんには、奥さんがいるのだから。