極上の愛に囚われて
家に帰れば、この瞳は奥さんを見つめ、手は奥さんの肌に触れるのだ。そう考えるだけで胸が痛くてたまらない。
彼が小栗ホールディングスの御曹司じゃなければよかったのに。そうしたら、きっと私と……。
そんなことは夢だ。
こうして会ってもらえるだけで幸せだと思うしかない。
じわっと滲み出そうな涙をまばたきで誤魔化して、マスターにカクテルのお代わりを頼んだ。
「あのときって、私たちが出会ったときのことだよね。翔さんは、すごく強引だったよ。なんなの、この人!? って思ったもの」
「ああ、あのときは、僕も必死だったから」
彼と出会った時のことは、昨日のことのように鮮明に覚えている。
今から一年くらい前。当時私は今の会社に転職したばかりで、毎日必死に営業先を回っていた。
だから道に穴が開いてるなんて気づきもしなかったのだ。
履き慣れた靴でカツカツとヒールを鳴らして歩いていたら、いきなりガッと足を取られて転んでしまった。
『いたた、なにが起こったの?』
痛みを堪えながら足元をみると、靴はすっぽり脱げていた。