極上の愛に囚われて
「翔さんが、離婚? ほんとに本人?」
思わずぼそっと呟いてしまい、ハッと口をふさぐ。隣に聞こえたかもしれない。
隣室はシーンと静まっている。今の出来事が夢であったかのような、そんな気になる。
「……沙雪」
襖がすらっと開いて、神妙な表情をした翔さんが立っていた。
「すまない。驚いただろう。こんなふうにきみに聞かせて、僕は卑怯だと思ってる。でも、事実として沙雪に認識してもらうには、この方法が一番いいと思ったんだ」
「……どういう、ことなの?」
慎重に尋ねると、彼は私のそばに座った。
「沙雪は、いつからと正確には言えないけど、僕が既婚者だと知っていたよね?」
「うん……知ってた。けど、翔さんに言ったら、もう会えなくなってしまいそうで、問い質すことができなかったの。既婚者だって分かっても、すきだったから……」
当時の気持ちを思い出して俯いて唇を結ぶと、彼はそっと手を握ってくれる。
「ほんとうに、悪かった。沙雪を失いたくなくて、どうしても、妻がいると言えなかった。許してほしい」
辛そうに顔を歪める彼の目が、涙で潤んでいる。
私だけじゃなくて、彼も辛かったのだ。