死んだはずの遠藤くんが教室に居る話
「兄ちゃんがさぁ」
僕が言うと2人の身体がびくりと動いた。
「昨日から相談していて、話を聞いてくれるって言ってたのは今朝教えたよね。そしたら今日の夜の9時くらいに、下に降りてきてくれるんだって」
言いながら僕の声は震えていた。両親は驚いた顔で僕を見る。
だから僕は興奮を隠すようにわざと平然な顔をして、自分の言葉に気合いを込める。
ほぼ家族断絶。家庭内別居状態の兄とコミュニケーションをとるなんて、家族そろうなんて最大のニュースである。
「ほとんどお母さんの内容であってるけど、誤解もあると思うから、信じてもらえないかもしれないけれど僕から話をするから聞いてほしい。それで僕からの勝手なお願いだけど……今回の話だけに集中して欲しいんだ。兄貴に負担を少しでもかけたくないから」
母親は何度も首を縦に振っていた。
「ふたりとも余計な話をしない。お母さんはマスクして欲しいくらい」
「ガムテープを口に貼って、両手を拘束してもいい!」
強く言ってくれるのはありがたいけど、それじゃ監禁じゃん。
「そこまでしなくてもいいけど、そのくらいの気持ちでいてね!」
僕も強く言うと、父親が「お父さんがしっかり言い聞かせるから」そう言ってくれた。
それなら少し安心だ。
ニュースというか
ミッションになってきた。
成功させなければいけないミッション。
兄が少しでも過ごしやすく
家族みんなで顔を合わせて
ほんの少しでも
昔みたいな時間が過ごせますように……。
「ありがとう」
母親が涙目でそう言い、僕は照れ隠しのように「マシンガントークしたら退場だから」そう答えたら父親が笑っていた。