策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 目に飛び込んでくる、洋館や和風の屋敷が軒を連ねることなく、ゆったりとたたずんでいるから風格がある。

 それぞれに合う手入れの行き届いた大きな木々が、高い塀からぽつりぽつりと顔を出している姿は、まるで私を物珍しげに見ているみたい。

 葉と葉が重なり合う音は、私を歓迎してくれるように涼しげな音を奏でて心地いい。

 わあ、周りのお屋敷を圧倒する洋館が、目に飛び込んできた。

 大きな鉄の門は開放的に開け放たれているから、ここも庭園だ。
 
「ようし、さっそく散策しようっと」

 ほのかな花の香りに(いざな)われて一歩、足を踏み出したら、長くつづく道に嬉しそうに弾む私の靴音が反響した。

 そよ風が揺らす花々の香りが、どんどん甘さを増して鼻先にふんわりと運んできてくれるから、迷うことなく奥へ奥へと入り込んだ。

 かさかさと足音が聞こえてきたのは、卯波先生だと思うから安心して大丈夫。

「無鉄砲め、無断で人様の敷地に入るな」

 姿を現した卯波先生の声が、背後から聞こえる。やれやれと呆れているみたいな声。

 ここが、人様の敷地ですって? 卯波先生でもジョークを言うんだ。

「まさか。いくら、お屋敷でも広すぎます、ここも庭園ですよ」

「ほう、なるほど。ここも庭園だったのか、これは失礼」
 まあ、わかればいいんですよ。

「ここも、私が見つけた庭園ですからね」
「不法侵入、住居侵入罪で捕まりたいのか?」
「庭園で?」
「人の家だ」

「まさか、ここが人の家だなんて。入り口まで白壁を凄くすごく歩きましたよ。ずっとつづく桜並木も、けっこうな距離を歩いて来ましたよ」

 いつものように、ふんふん頷きながら黙って聞いていてくれる。

「ちょっと待ってください。私が不法侵入の住居侵入罪なら、卯波先生も同罪ですよ」

 突然、思いついた私って凄い。テンポよく口から言葉が出てくる。

「卯波先生も共犯ですからね」
 いっしょに入っているもん。

「呆れた、心配して探しに来た人に対して、その言い方はないだろう」

「いけないんだ、勝手に入って来た」

「桃が心配だから、つい」
 そんな哀しそうな目で私を見つめないでよ。
 罪悪感で目を伏せたまま、二度と顔が上げられない。

「すみません」
 顎が胸につくほど、しょんぼりうなだれる視線の先に飛び込んで来たのは、地下足袋。

「おかえりなさいませ、せい坊っちゃま」
 ん? せい坊っちゃまですって。

 せい坊っちゃまか。

 なに?
「せい坊っちゃま!!」

 ワンテンポ遅れて認識した私の口が、悲鳴に似た叫び声を上げ、広大な敷地に振動するように響き渡った。
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