策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「花を愛でれば落ち着く。さっきの桜並木の他には、けやき並木に銀杏並木。アーチはスイカズラの他に、薔薇やクレマチスなんかがある」

 ここもあそこもと、遠く近くと人差し指を向けながら説明してくれるEラインが美しすぎて、瞬きをするのさえもったいない。

 新緑が鮮やかに色づき、爽やかな緑が芳醇な香りを放つ庭を、卯波先生と歩けるのが嬉しくて、お喋りが止まらない。

「くちなしのいい香りがする」
「世界三大香木のひとつだ、いい匂いだよな」
 雪みたいに真っ白なくちなしに駆け寄ろうと、卯波先生の手を離した。

「転ぶな、気をつけろ」
 心配性、子どもじゃないんだから。

「まだ桃は子どもだ」
 違うってば。

「興味をもつと子猫のように走り出し、蝶が飛ぶように動き回るから、危なっかしいんだ」

「卯波先生のお庭のは八重じゃない。一重で珍しい、可愛い」
 近づいて香りを存分に楽しむ。甘くて、とってもいい香り。

「見てみろ、ヤマモモ。真っ赤になるまで、あともう少しだ」

 わあ、大きな木。駆け寄り、首を伸ばしきれるまで伸ばして仰ぎ見る。

「俺が生まれたときに、記念樹として植えたそうだ」
「わあ、いいな、記念樹いいな」

「俺たちが結婚したとき。そして子どもが生まれたら、そのたびに植えよう」

 血液という血液が、すべて顔に集まったみたい。熱くて、どっきんどっきん脈打つ。

 結婚かあ。

 妄想が浮かんでくるたびに、にやにやしたら、卯波先生に気味悪がられちゃうから大急ぎで頭を振る。

 卯波先生ったら、どんなに素敵な夢を私に見させてくれるの。

「夢じゃない、現実だ」
 穏やかな心地いい声が耳に届く。

 俯いて下唇を軽く噛み締めることで、にやにやを抑えてから、顔を上げて見つめた。

 ダメだ、嬉しいよって、顔中が口になったみたいに笑顔が溢れ出して止まらない。

「ヤマモモのように真っ赤だ。こっちのモモは食べごろだろうか」
 瞬間、唇にキス。

「こっちのモモは、たまらなく甘い」
 力が抜ける。ねえったら、もう。
 どうして、こうも甘いことするかなあ、もう。

 熱い唇が冷める間もなく、ぎゅっと肩を抱き寄せられたから、私の胸のどきどきは最高潮。

 また震える。
「困る」
「どうしたんですか?」
「震えるほど俺を大好きだって、桃の心が叫んでくる」

 なかば楽しむような余裕の眼差しは恥ずかしいほど熱いし、覚めちゃいそうな夢を見ているみたい。
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