策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「桃には刺激が強すぎたな」
「恥ずかしいくらい、体が熱い」
「それは熱病を患っているんだ」

 真剣な顔は、深刻そうに私の瞳を覗き込むから体が心配。大丈夫なの? 私の体。

「治るんですか?」
「無理だ」
「え」
「泣きそうな顔をするな。桃の熱病は、卯波先生大好き病、愛の熱病だ」

 もう! 脅かさないでよ。全身の力が一気に抜けたじゃないの。

「怒った顔も可愛い」
「からかわないでください。その熱病は、私の生涯をかけても治りませんよ」

「だろうな」
 体の熱が高まると感情の熱まで高まる。私のハートよ、どきどきを鎮めなさいったら。

「うん、似合う、可愛い」

 まだ胸の鼓動が治まらない私の髪を撫でて、満足げに頷いている卯波先生に、心だけじゃなくて、体の変化も読まれそうで恥ずかしい。

「あ、あの......」
 ためらう語尾が間延びして、恥ずかしさで卯波先生の顔をまともに見られない。

「桃の漏らした声に聞き覚えがあるのは、子猫が甘えるときの声とおなじだからだ」

 今のは独り言? 顔を明後日のほうに向けちゃった。

 横顔を仰ぎ見れば、困ったように眉根を寄せているのに、口角は上げて耳たぶに触れている。

「ありがとうございます、卯波先生との愛の証し。羽衣ジャスミンの花言葉は、あなたは私のもの」

 聞いているのかな、まだ横を向いたまま。

「優しさを集めてくれる、卯波先生にぴったりです。卯波先生は、私を喜ばせるために生まれてきてくれたんですね。記念樹も髪飾りも、なにもかも」

「お腹、すいたか?」
 あは、照れているんだ、素っ気なく聞いてきた。
「はい」

「うちへ入って昼食にしよう」
「また、お庭に連れて来てくださいね」
「日がのびたから昼食後にも来られる」
「やった、早く昼食」

 心躍らせ手をつなぎ、卯波先生の体をどんどん引っ張って行く。

「道は間違ってはいないが、家はわからないだろう?」
「それもそうですね、連れて行ってください」

 今、歩いている通路は、庭から家に向かう園路だって言うの。
 玄関から門につづく通路は、アプローチだって。園路にアプローチ?

 いったい、どんな屋敷なの。
 想像を遥かに超えているから、頭が広大さをイメージできない。

 さっき入った門扉は園路ので、園路用と玄関用と門扉があるんだって。

「玄関の門扉は、さらに大きな造りになっている」
 まるで世間話でもするかのように、鼻柱も動かさず、平然さらりと淡々とした口調で言い放つ。

 全然、自慢しているでもなく、聞いているほうも自慢話に聞こえない。

 単に、事実を説明しているだけなのが伝わってくる。
 育ちのよさが滲み出ていて、がつがつしていない。

「さっきので、こんなに大きくて高くて立派だったのに」
 嘘でしょ、信じられない。
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