策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 卯波先生の手から離れて、興奮しながら上下左右に、両手を精一杯に伸ばして広げる。

「大きくて立派って、あれは園路用の門扉だ。スイカズラのときは、また別の園路用の門扉」

「えええ! 両方ともたどり着くのに凄くすごく歩いて来た。どれだけ広いの」

「なにも不思議なことではない」

 私とは対照的に、抑揚のない淡々とした口調は、落ち着き払っていつもと変わらず。

「玄関の門扉の想像がつかないです」
 私の驚く声に、困ったように苦笑いを浮かべ、首を傾げている。

「通常は運転手が車で送迎する」
 でしょうね。わかる、外出するときにね。
「外出に運転手さん付きなんですね」

「それもだが、その他にもだ」
「まさか園路や玄関から、家に入るのに車が必要なんて言わないですよね?」

 顔半分だけ緩ませて笑ったら、耳を疑う答えが返ってきた。

「その、まさかだ」
 息が止まるかと思うほど現実味がない。桁違いに大きな衝撃の広さ。

「どれだけの距離があるんですか?」
「他の家と比較したことがないから、わからない」
 そうだ。まず比較できる豪邸がない。

「急がないと、日が暮れる」
 卯波先生が私の手をスマートに取り、優雅に歩を進めている。

 私ときたらエレガントな卯波先生とは逆に、あくせくちょこまかと早歩き。
 少し(すね)が痛いほど。

 急がないと卯波先生の家だと、本当に日が暮れちゃう。
「卯波先生、早く」

「一歩の歩幅が広いから、ゆっくりと見えているだけだ。せかせか足を運ぶ桃とは違い、効率的な足の長さだ」

 足の長さの違いを真面目に説いてくる。
 しかも、クールな卯波先生らしくなく切々と。

 院長みたいに、冗談でからかってくるのとは違い、卯波先生のは本気度を感じさせる真顔だから、ダメージを与えてくるんだよね。

 単に事実を述べているだけだから、本人に全然悪気はないんだけれどね。

「大丈夫か?」
 つないでいる手を引っ張ってくれて、卯波先生のうしろをついて歩いた。
 とにかく、感覚は何千年分も歩いた気がする。

「到着した、何千年分も歩いて」
 また心を読む。

 横顔を見上げれば、そこには汗ひとつかいていない涼しい顔。

「ずっとずっと、遥か遠くの彼方から見えてただけあって、とんでもないケタ外れの豪邸ですね」
 息を飲むとは、このこと。

 鬱蒼と生え茂る木々に囲まれた、全体が白い洋館のさまは圧巻のひとことに尽きる。

「信じられない。私が目にしてる景色は、額縁の中の絵です」

 窓や柱の曲線が緩やかで、優美な雰囲気が醸し出されていて、心にも見た目にも優しい。

 園路から家に入りエントランスまで、また歩くそう。

「あそこにいらっしゃる方々は?」
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