策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「執事の根崎さんとお手伝いの初美さん。竹さんのように、俺が生まれる遥か昔から、住み込みで世話をしてくれている」

 早くお逢いしたくて、逸る心が弾む。

「初美さんは小柄で愛らしく、いつも朗らかな女性。根崎さんはロマンスグレーのオールバックがとても似合うダンディーな、ウィットに富んだ男性」

 卯波先生には珍しく、堰を切ったように次から次へと話してくれる。

 卯波先生にとって、とても大切なかけがえのない方々なんだって、卯波先生の皮膚や呼気からの放熱で伝わってくる。

 だんだん距離が近づくと比例するように、お二方が優しく微笑み、車寄せのポーチで迎えてくれた。

「おかえりなさいませ、せい坊ちゃま」
 お二方の声が、まるでハーモニーを奏でるように揃う。

「ただいま、こちらは緒花 桃さん。ラゴムの動物看護師で僕の結婚相手。お二人とも、よろしくお願いします」

 こちらが恐縮するほど腰の低い、根崎さんと初美さんと初めての挨拶を交わした。

 け、結婚相手。
 一生を左右するようなことを、思いつきで口走ってしまう卯波先生ではない。

 今日の私は、なにしに卯波先生のご自宅にお伺いしたの?

 考える間もなく、お二方が羽衣ジャスミンの髪飾りを褒めてくれた。
 嬉しくて、心がくすぐったがる。

 スーツ姿の根崎さんが、内側に開けた両開き扉は、長い歴史を感じさせる風格がある佇まい。

 はあ、凄い。お屋敷の両開き扉なんて生まれて初めて見た。

 首を動かさないように、目だけ上下に動かして見渡す。

 昔の職人さんの腕って、たしかなんだなあ、頑丈そうな大きな扉。
 今でも十分、防犯性が高いでしょ。

 一歩エントランスホールに足を踏み入れると、眼前に広がる両階段に、私の目は釘付け。

 なにここ、舞踏会するんだよね、そうだよね、おとぎ話でしょ、現実じゃない。
 私は、いったいどこへ来た?

 両階段で目が点なのに総大理石って、どういうこと?
 床一面も大理石で壁一面は漆喰って。驚いて唖然とするしかない。

 絨毯は落ち着いた深紅で、きれいだから思わず後ずさりしそうになったけれど、よく考えると、どこまで下がっても果てしなく絨毯がつづいているの。

 一階エントランスホールから始まる、こういうのは、パブリックスペースっていうのかな。

 穏やかな日だまりが輝き、光の柱を作り上げているから、天空みたいな天井に視線を向けてみた。

 開放感のある吹き抜けで、空からまっすぐ日射しが差し込んでいる。

 ピカピカに拭きこんである、真っ白な柱に反射する光が、室内をまんべんなく照らすから眩しい。
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