策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「旦那様と奥様は、お仕事中でございます。のちほど休憩中に、お顔をお出しになられるかと」

「了解。今朝は、急な連絡でごめんなさい」
「滅相もないです。いつでも、お帰りあそばせください」

 ダイニングルームの前には、のけ反って上まで見てるほど長い扉。
 
「初めて見たのか?」
 卯波先生の言葉に、ただただ首を縦に振るしかない。

 物音ひとつしない建物を前にした私の耳には、卯波先生の息遣いみたいな囁きが響いているだけ。
 
 根崎さんが開けた扉の横を、卯波先生が促すように私の腰に軽く手を添えてエスコートしてくれる。

「大丈夫か?」
 そっと耳もとで心配してくる声に、恥ずかしさで頷く。

 腰に手を添えられることが、まだ慣れない。嬉しいのに想いは複雑。

 ダイニングルームに一歩足を踏み入れたら、生まれて初めての綿毛みたいなカーペットに足を取られて、ひょこって卯波先生に体をあずけちゃった。

 歩いても無音で、スリッパなんか沈み込んで見えなくなったから、思わずきょろきょろスリッパを二度見した。

 卓球台の三倍以上ありそうなテーブルから、上目遣いに視線を馳せれば、頭上にはきらめき輝くシャンデリア。
 
 電飾じゃない。だれが点けるの? 一本いっぽんのロウソクに火が灯っているから、驚きを隠せない。

 卯波先生に口だけ動かして、ロウソクって言ったら、ちらりと一度だけ上に視線を馳せて頷いてきた。

 そうだよな、ロウソクだなみたいな顔をしただけ。
 そうね、生まれてからずっと見てたら、当たり前のことだし驚かないよね。

「緊張していないか?」
「全然。お二方もいい方ですね、お腹がすきました、ぺこぺこ」

 心配したのが取り越し苦労だったと、言いたげな顔で眉を下げて微笑んでくる。

「今、運んできてくれるからたくさん食べろ」
「ありがとうございます」
「幸せな顔だ、食べるから」
「卯波先生といられるから」
「だろうな」

 料理はフルコースのように運ばれてきて、どこかの高級店で食事をしているみたい。

「いつもより豪華だ。両親が桃を歓迎して作らせたんだ」

 どんなに顔を近づけようとしても、大きな広いテーブルでは内緒話は到底できない。

 大きな長いテーブルは、近眼だったら真っ正面の人の顔さえも見えないかも。
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