策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 私を抱き上げているせいか、凄く胸板が盛り上がり二の腕の筋肉が硬い。

「レンガのような赤い顔をして、熱があるのか?」
「わかりません」
 わからない、顔から全身から熱い。落ち着こうと、ふうっと一息ついた。

「いただきます」
「しっ」
 卯波先生が瞬時に息を吐き、小首を動かし、前を向いて歩いているサニーに視線を向ける。

「内緒だ」
 すみませんって謝った。卯波先生みたいに、口だけ小さく動かして。
 おいしい、歩いた甲斐があった。

 痛みが飛んでいきそう、お腹ぺこぺこが落ち着いた。

「けっこう大きかったクッキー、俺の分まで三枚すべて食べたのか?」
 抱き直す逞しい腕が、私の体を一度だけ軽々浮かせた。

「あっ、つい夢中で。やっちゃった、ごめんなさい」
 申し訳なさで顔が歪み、下唇を噛んだ。

「冗談だ、三枚とも緒花くんのためだ。少しは、お腹の足しになっただろう?」

「ごちそうさまです、ありがとうございます。おいしかったです」
「それなら、よかった、安心だ」

 きついのかクールなのか優しいのか、卯波先生のことが、さっぱりわからない。

 病院に到着するまで抱き上げていてくれ、スタッフステーションの前で、ゆっくりと下ろしてくれた。

「サニーにごはんをあげるから、宝城に顔を見せてやれ、とても心配していた」
「私がサニーにごはんを」
「いいから行け」

 言いかける私の言葉を遮り、「さっさと行け」と、背中に軽く手を添えられた。

 口調は淡々と無感情なのに、添える手は優しくて、私の足を気遣ってくれているのかな。

 スタッフステーションに入ったら、椅子に深く腰を沈めて座っている院長が、顔中のしわを遠慮なく鼻の頭に集めて、げらげら笑う笑う。

 そんなに笑わなくてもいいじゃないの。

「おかえり、お疲れさん。また迷子になったのか、こんなに遅くまで」
「ただいまです」

「大通りばかりの立地で、よく迷子になれるよな、迷子のセンスあるよ」
「笑いすぎです、ひどい」
 これが、本当に心配していた人の態度?

「おいで」
 緩んでいた顔が真顔に変わり、こちらを見ながら浅く頷く。

 ころっと表情が変わったから、警戒心が強い外猫みたいに、院長を遠目から凝視した。
「おいで」

 院長の表情が緩やかな笑顔になったら、自然に足が動いて目の前まで行ったら、慈悲深げな眼差しが注がれる。

「噛まれたところ痛かったよな」

 温かく大きな手が撫でてくれて、その顔はいつもの愛嬌たっぷりの笑みを浮かべているから安心する。

「なにか貼ったのか?」
「卯波先生が湿布をくれて貼れって」
「あいつがか」
 なにかを考えるように数秒だけ手が止まり、また撫でてくれる。
< 21 / 221 >

この作品をシェア

pagetop