策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「ここまで、どうやって帰って来られたんだよ?」

「コンビニで支払いを済ませたって、卯波先生と会ったから帰って来られました」

「コンビニで支払いって言ったのか」
 院長が、ふんと鼻から息を吐いて力なく笑った。

「あんな遠くまで、わざわざ支払いに行くんですね」

「なにかを感じ取ったように、血相変えてドアをぶち破る勢いで、急に飛び出して行ったくせに」

 ふだんはよく通る声なのに、ぼそぼそ呟いているから聞こえない。

「なんですって?」
「こっちの話」
 そろそろ帰ろう。

「ありがとうございます。ご心配をおかけしてすみませんでした、お先に失礼します」
「気をつけて帰れよ」

 スタッフステーションを出て、細く長くつづく見通しのいい廊下を、休憩室に向かっていたら、卯波先生が歩いて来たから駆け寄った。

「サニーに餌をありがとうございます」
「仕事をしたまでだ。それより、足が痛いのに走るな」

 心配してくれるんだ。
 じゃなくて迷惑なんだっけ。あああ、落ち込む。

 急に卯波先生が、広い肩幅よりも更に広く、両手を壁について体を横向きにした。
 急になにしているの?

「下をくぐって行け」
「ここを?」
「通り道は、ここだけだ」
 まるで長いアーチみたい。

「二人がすれ違うには廊下が狭い、さっさと通って行け」

 慌てた声は、いつもより妙に高くて「は、はい」と、体を横向きにしたら、向かい合う卯波先生と体が触れそう。

「震えている、寒いのか?」
 持て余す長くしなやかな両腕のあいだから、見下ろす卯波先生の顔を仰ぎ見た。

 と、思ったよりも顔が近いから、思わず言葉を飲み込んで凝視して、返事のしるしに首を横に振る。

 卯波先生の言う通り、またなの?

 どこが震えるのかもわからない、どうして震えるの?

 卯波先生の顔ばかり見ていたら、医療品の入った段ボールに足を取られ、反射的に目を閉じたら、体が羽毛みたいに軽くなった。

 卯波先生に引き寄せられ、抱き止められたんだ。
 ふらっとよろめいたから怖かった、助かったんだ。

 大きな息を吐きながら目を開けたら、鼻の先が今にも触れそうな距離に、卯波先生の顔があるから、驚いて思わず身を起こそうとした。

「急に動くとふらつくから、じっとしていろ」
 冷静な顔で覗き込んでくる。
< 22 / 221 >

この作品をシェア

pagetop