策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 達筆な文字は芯の強そうな字で、“お疲れ”とだけ書いてある。

 間違いなく、ピちゃんの院長じゃないことはたしか。

 湿布と、あとクッキーの残りは別の袋に入っているってことは、完全に卯波先生。

 クッキーに湿布の匂いがつかないように、袋を分けるなんて、几帳面さと心遣いが卯波先生。

 卯波先生の優しさは、さりげない。

 外見や口調はクールなのに、心の中は凄く優しいのかも?

 わかりづらいからか、逆にどんな人なのか興味が湧く。

 今日も、息つく暇もないほど仕事に明け暮れ、大忙しの一日が終わり帰路に着く。

 覚悟はしていたのに、まさかここまで忙しいとは思わなかった。

 ひとり暮らしで、両親のありがたみが心に沁みる。家に帰れば、食事が用意されていて温かなお風呂にも入れた。

 今は冷蔵庫を開けて、作り置きのもので済ませてしまう。

 動きっぱなしで、食べても食べても痩せていきそう。それほどまでにハード。

 みんな、よくしてくれて可愛がってくれていいところ。

 でも、誰かに押されているように一日中走り回るし、話せない動物相手だから気疲れでくたくた。

「痛っ」
 チワワのメイに噛まれた太ももが、まだ痛む。

 そっと手を重ねると、大きな温かな手の感触が残っている。

 ふとした瞬間に卯波先生に抱き上げられたり抱き止められた、ぬくもりがよみがえる。

 太ももに手を重ねた瞬間の今が、まさにそう。

 そういえば、卯波先生といたときは、メイに噛まれた太ももの痛みを感じなかった。抱き止められたりしたのに。

 痛みより、どきどきしたほうに気を取られたのかな。

 あっ、また震えが始まった。こうして卯波先生のことを考えるだけで、心も体も震える。

 どうして震えるのかわからない、震えるってなに?
 いったい私の中で、なにが起こっているの?
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