策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
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 翌朝、湿布を剥がすと腫れていない、よかった。

 卯波先生にもらった湿布を貼ったら、ひんやりするのに、心はほんのり温まる。

 口調は抑揚がなく淡々としていて、笑顔を浮かべるでもないのに不思議。

 どうして卯波先生には、私を元気にしてくれる大きな力があるの?

 身支度をしたり朝食をとったり、ラゴムに到着するまで考えた。お返しのこと。

 なにをしたら喜ぶのかな、笑顔が見たい。

 ラゴムに到着すると、スタッフステーションのスクリーンをチェックし、入院室のサニーに挨拶して待合室の掃除を始めたら、坂さんが出勤してきた。

「おはよう、足は大丈夫?」
「おはようございます。腫れてはないんですが、少し痛いです」

「チワワって体に似合わず、噛まれると凄く痛いわよね。あともう少しの辛抱だからファイト」

「ありがとうございます、ご迷惑をおかけしてすみません」

 下げる頭上から、「迷惑?」不思議そうな声が聞こえ、顔を上げたら軽く口角が緩んで見つめられた。

「昨日、卯波先生に言われたんです」
「なんて?」

「痛みを我慢してたら、『我慢は美徳でも思いやりでもない。欠勤されたらスタッフが迷惑だ』って」

「俯いてないで顔を上げて」
 にこやかな笑みを浮かべる優しい瞳が、また話しかけてくれる。

「卯波先生も院長も私も、迷惑だなんて思わない」
 今度は、私が不思議そうな顔をする番。

「卯波先生が迷惑って言った本心は、緒花さんに無理をさせたくないから。優しさなのよ」

「あ、あの......」ためらう語尾が間延びしてしまったら、「ん?」って微笑んでくれた。

「優しさなんですか?」

「緒花さんは、人に迷惑をかけたくない気持ちが人一倍強い。迷惑って言えば、あなたは無理をしない」

 黒縁めがねの端を上げ、諭すように言葉をかけてくれる。

「そういうことなんですか。あああ、なんだもう」
 安心して肩の力が抜けたわ。おとなって、まどろっこしいんだ。

「初めて人から迷惑だなんて言われて、申し訳ない気持ちでいっぱいになってましたし、きつい言い方が怖かったんです」

「そうね、卯波先生は表情や口調がね」
 なにも言わずに肩に触れてくれる手が、私に安心感をくれる。

「本心が優しさで安心しました。こういう優しさもあるんですね」

「社会に出るとおとなと接して、いろいろなことを経験する。ひとつ、おとなになったわね」
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