仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


◇◇◇

「今度はいつ会えるんだろう」

 連絡のないスマホの画面を見つめたまま、ぼそっとこぼす。

 昨夜一本電話を入れてくれただけで、それからなんの音沙汰もない。たった一日会えないだけで、恋しくなっていた。

 幸せな時間を知ってしまっただけに、知らなかった頃には戻れなくなっていたのだ。これまで自分はどうやってやり過ごしてきたのだろう。それすら思い出せなくなっている。

 そもそも結婚していて、同じ家にいるのにこんなセリフが出てくること事態可笑しいのだが、それはもうどうしようもない。彼の仕事に対する熱意は知っているし、「仕事と私どっちが大知なの」なんて愚問を呈する女ではない。

 でもやはり寂しい物は寂しい。だからつい、足が向いてしまった。実家の病院に。

「こんにちはー」
「あら、杏ちゃんいらっしゃい」
「志乃さん、こんにちは」

 笑顔で迎えてくれる志乃に、心が安らぐのを感じる。実家パワーとはすごい。

「今日はどうしたの?」
「志乃さんとお昼一緒に食べたいなーと思って」
「いいわね。ちょうど今からお昼に上がるところ」
「だと思って、持ってきました」

 持参のお弁当を掲げ、へへっと子どもみたいな笑みを浮かべる。それを見た志乃も、嬉しそうに微笑んだ。

 こうしていると、本当の姉妹のようだ。杏にとって志乃は姉であり母親。半年後にはこうやって会えなくなるのだと思うと、既に寂しくて仕方ない。



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