仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
「たまーにいるんだけどね、身の上相談してくる人。私なんて声かけてあげていいかわからなくて」
聞けばその患者は、四十代女性で、家族とのトラブルで悩んでいたとのこと。
最初はぼやく程度だったが、志乃が「大変でしたね」と声をかけたことで、どんどんエスカレートし、しまいには泣き出し、診療どころじゃなかったのだとか。
おそらくはけ口がなくたまっていたのだろう。それにくわえ、志乃が同世代だったため、つい心が緩んでしまったのかもしれない。
「そんなことが」
「杏ちゃんだったらどうする?」
「そうだな……」
杏は少し考えた末、おもむろに話し始めた。
「困ってることだけに意識を向けると、苦しくなっちゃうから、今その人ができてることから確認するかな」
「へぇ。なるほど。さすが」
「きっとその人はすでにすごく頑張ってるから、まず褒めてあげたい」
志乃は杏の言葉に、うんうんと熱心に頷いていた。
「そのあとに、どこからアプローチするか考えるかな。悩みって、毛玉みたいなものなんだよね。複雑に絡み合って、そうなったら、どこから解けばいいかわからなくなっちゃうの。きっとその人も、糸口がほしいんだろうね」