仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 彼女は今も、辛い境地にいるのかもしれない。想像すると、胸が痛んだ。

「その場に杏ちゃんがいてくれたらよかったな」
「偉そうなこと言っちゃったけど、実際その場面に出くわしたらうまくいくかどうか。それにまだ私、臨床心理士じゃないし」
「ううん、杏ちゃん立派に自分の道を進んでるよ。私ちょっと感動しちゃった」

 言いながら、目頭を拭っている。その姿にギョッとした。

「ちょっと、志乃さん! 大袈裟だって」
「年取るとちょっとしたことで、涙腺緩むのよ。それに、杏ちゃんは娘みたいなものだからさ。おばちゃん嬉しくて」

 泣き笑いしながら、ぽんぽんと杏の肩を叩く。それにつられ杏も泣き出しそうになった。

「私だって、志乃さんのこと、お母さんみたいだって思ってるよ」
「そこは、お世辞でもお姉さんっていうところでしょ」
「えー! だって、今娘って」
「あはは、冗談よ」

 けらけらと笑い合いながら、楽しい時間を過ごした。

 志乃がいてくれてよかったと、心から感じていた。

 この病院を守ることはできなかったけれど、志乃とはこれからも繋がっていたい。ううん、繋がっていられる。大知が前言ってくれた言葉が、今も心に残ってる。


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