仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
『一度繋がった縁に別れはない』
杏にとって、今では宝物。
杏と志乃も見えない糸で繋がってる。友情とも、親子ともいえない関係だけれど、それに名前なんていらない。それが何より大切で、簡単には切れないものだとわかっていれば。
「杏ちゃん、おかず交換しない? 私の卵焼きあげる」
「いいの? やった。志乃さんの卵焼き大好きなんだよね。じゃあ私の鶏のつくねと交換ね」
「もしかしてこれ手作り? 手込んでるね。すごいね、杏ちゃんは」
感心しながら、志乃はそれをぱくりと頬張った。それを見届けると、杏も卵焼きを口にする。甘くて出汁の味がしっかりする、志乃の卵焼きは杏にとって思いでの味。
「やっぱり、志乃さんの卵焼きは美味しい」
「このつくねもめちゃくちゃ美味しいよ! 私も今度作ってみよ」
「旦那さんきっと喜びますよ」
「ノーノ、うちの可愛いツインズのためだから。ていうか、あの子らすっごい食べるからどのくらいひき肉買ったらいいんだろう。想像しただけで怖いわ」
口元を引きつらせながら苦笑いをする志乃を見て杏はクスクスと笑った。
それから少しして志乃とランチ会を解散すると、杏はそのまま明に結婚の継続を報告していた。
明はホッとしたような顔をしていて、
「無理しなくていいからな。いつでも帰ってきなさい」
とだけ言った。
杏はうんと力強く頷くと、家路へと急いだ。