仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「大知さん……!」

 杏は呆然と立ち尽くしたまま、あんぐりと口を開ける。完全に計画倒れだ。

 しかもすでにシャワー済みで、濡れた髪をタオルで拭く大知の姿は、恐ろしいくらい色気が滴っている。

 白のTシャツに、ネイビーのスリムパンツを履いていて、シンプルな装いにもかかわらず、抜群の破壊力がある。ひいき目を抜いたとしても、芸能人も顔負けだ。

「今日はお早いんですね」
「あぁ。久々に穏やかな夜だった」

 穏やか。つまり、急患や急変もなく、落ち着いていたということなのだろう。実際、顔つきもいいし、疲れも見えない。

 そんな爽やかな大知とは打って変わって、杏はまだパジャマ。自分の姿に視線を落とし、途端に昨夜の自分を恨みたくなった。

(朝からたくさん美味しい物を作る予定だったのに。目覚ましかけておくんだった)

 しょんぼりとした様子で肩を落とす。すると大知が、杏に近寄りながら、徐に聞いた。

「杏、今日の予定は?」
「え? とくには……」

 強いていえば、一緒にごはんを食べてまったりするつもりだった。昨夜からそんなことばかり想像して、一人でにやけていたとは言えない。


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