仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
「そうか。じゃあ、朝飯食べに行こう」
「え? 朝ごはん?」
てっきり寝るのだろうと思っていた。それに当直明け。疲れているんじゃ?
ちらりと心配そうな視線を向けると、そんな杏を察し、大知が口添える。
「ちなみにけっこう仮眠できたから疲れてはいない。なんなら、杏を抱えてジョギング出来そうなくらい元気だ。それに、たまには時間とかルールとか、そういうの全部忘れて、流れに身を任せるのもいいと思わないか?」
ぽかんとする杏に視線を落とし、優しく微笑む。その顔を見て、一気に胸が高鳴り始めた。
つまり、デート? 大知とデートできるってこと? これまでそれらしいことをしてこなかった杏にとって、とびきり嬉しい提案だった。
「行きます!」
背伸びをしながら勢いよく返事をすれば、大知は嬉しそうに杏の髪をくしゃっと撫でた。
「そうと決まれば、さっそく出発しよう」
「はい!」
(大知さんと、初めてのデート。どうしよう、嬉しい!)
思いがけなかったこともあり、足元はぴょこぴょこと浮つき、無意識におしゃべりになる。
「何を着ていこうかな。あ、髪の毛。お化粧も。大知さん、待ってくださいね、すぐに準備しますから」
そんな杏を、大知は微笑ましそうに見ていた。