仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない

 いわゆるペーパードライバーだが、大知が疲れているときは自分が支えたい。大知にしてみれば、怖くて任せられないかもしれないが。

「ウインカーが右でしたよね。そして、ワイパーが……」
「どう見ても、今日はワイパーは必要ないだろ」

 空を指さしながら、大知は今にも吹き出してしまいそうなのを堪え、そう突っ込んだ。その声に杏は「あ、それもそうですね」と、へへっと恥ずかしそうに笑った。

 その顔が可愛らしくて、大知は身もだえるように額を手に当てる。こういう何事にも懸命なところが、大知の心をくすぐって仕方ないのだろう。しかも本人は無自覚というところが、たちが悪い。

「どうしたんですか? 大知さん」
「いや、俺の奥さんかわいいなと思って。俺は杏の虜みたいだ」

 突然甘い眼差しを向けられ、ドキリとする。

「たった二日会えなかっただけなのに、恋しくて仕方なかった」
 
 気持ちが通じ合ってから、大知が甘い。こんなふうに想っていることをストレートに伝える人だとは、知らなかった。この視線だって、杏だけに向けられたもの。自分が、特別なのだと感じる。



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