仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
「わ、私もです……大知さんにすごく会いたかっ……んっ」
不意に後頭部を押さえられたかと思ったら、触れるだけのキスが降ってきた。
「悪い、こらえきれなかった」
至近距離で目が合ったまま、キョトンとする。しかもそんなことを言いつつ、悪びれる様子はない。こっちはドキドキして仕方ないと言うのに。
「ふ、不意打ちはずるいです」
しかもこんな人のいる場所で……。
「じゃあ予告したらいいのか?」
「そういう意味じゃありません。場所の問題です」
必死に涙目で訴えれば、大知はくくっと喉を転がすように笑った。
他愛もない、ただのじゃれあいなのに、幸せでたまらない。ずっと続けばいいのに。ううん、ずっと続いて行くはず。だってもう二人を阻むものは何もないのだから。
「大知さん、今日は連れてきてくれてありがとうございました。世界中の幸せを集めたみたいな気分です」
「またそんな俺を困らせるようなことを……。ここが外で。じゃなきゃ今頃、押し倒してるぞ」
どういう意味か察知した途端、徐々に顔が火照り始める。
すぐ赤くなる体質はコンプレックスでもあるが、それすら可愛いと大知は思っているようだ。機嫌よさそうに、おろおろする杏を眺めている。
すると近くから、着信を知らせるような機械音がした。