仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない

「杏は? 平気か?」

 言いながら隣に腰を掛ける。シャンプーのいい香りがして、それだけでクラクラしそうだった。

「はい、大丈夫です」
「そうか」

 大知はそっと手を伸ばし、杏の髪を耳にかける。露わになった耳朶(じだ)に大知の指がわずかに触れ、ぴくっと体がすくんだ。

「あの、なにか飲みますか? コーヒーでも入れましょうか」

 空気を察し立ち上がろうとしたが、すぐに阻止された。

「いいよ、そんなの。あんなかわいい笑顔一日見せられて、これ以上待てると思うか」
「きゃっ」

 覆いかぶさってきた大知に、かぷっと唇を食まれる。それだけでドキドキして、手の平にじんわりと汗が滲む。

「杏」
「んっ……」

 じゃれ合うようなキスを繰り返し、段々熱量が上がったキスに変わる。大知のくれる優しいキスが好きだ。心地よくて、すぐに夢中になってしまう。

「今日一日、ずっとこうしたかったのを我慢してた」

 その言葉通り、いつもより激しい気がする。焦れたように衣服をはぎ取り、マーキングするかのように、体中に痕を残していく。気づけば白い素肌に、真っ赤な花がいくつも咲いていた。

「あっ……だいち、さ、ンッ」

 汗臭いかもしれない。こんな場所で……そんな無駄な思考も、与えられる快楽によってあっさり摘み取られ、気づけば必死に彼にしがみついていた。

 タガが外れた大知に激しく抱かれ、一晩で何度も果てを見た。互いを求め合い気が済むまで抱き合うと、杏は死んだように眠りに落ちたのだった。


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